『第67回日本神経学会学術大会』中村医師

学会名 第67回日本神経学会学術大会
日 時 2026年5月20日~23日
場 所 パシフィコ横浜
2026年5月23日、パシフィコ横浜で開催された第67回日本神経学会学術大会に参加してきました。
様々な興味深い発表がありましたが、個人的に特に印象に残ったのは、アルツハイマー病(AD)や進行性核上性麻痺(PSP)などの「タウオパチー」に対する新しい治療法についてのシンポジウムです。
近年、レカネマブをはじめてとする抗アミロイドβ抗体が実用化され、アルツハイマー病治療は大きく前進しました。しかし、その効果は限定的であり、認知機能低下や神経細胞障害には、アミロイドβだけでなく「タウたんぱく」が深く関与していることが分かっています。そのため現在は、タウを標的とした治療法の開発が世界中で進められています。
タウは本来、神経細胞の骨組みである微小管を安定化する重要なたんぱく質です。しかし病気になると異常なリン酸化を受け、凝集して神経細胞内に蓄積します。さらに、その異常タウが脳内で広がることで病気が進行すると考えられています。
今回のシンポジウムで特に印象的だったのは、研究者たちがさまざまな角度からタウ病理に挑んでいることでした。
異常タウの脳内伝播を抑える抗タウ抗体、異常タウそのものの生産を抑える核酸医薬、タウの凝集を防ぐ凝集阻害薬、さらには蓄積したタウを細胞内の分解機構(アグリファジー)によって除去しようとする治療など、多様なアプローチが同時に進んでいます。
少し前までは「タウが病気に関与しているらしい」という段階でしたが、現在は「タウをどのように減らすか」「どの段階を標的にするか」が具体的に議論される時代になっており、研究の大きな進歩を実感しました。
もちろん、これらの治療法の多くはまだ臨床試験の途中段階であり、すぐに実用化されるわけではありませんが、以前と比べると確実に希望が見えてきています。
今後は、アルツハイマー病において抗アミロイド療法と抗タウ療法を組み合わせることで、より強力な疾患修飾療法が実現する可能性があります。
また私自身が特に期待しているのは、こうした研究成果が進行性核上性麻痺(PSP)や大脳皮質基底核変性症(CBD)といった他の一次性タウオパチーへ発展していくことです。
現在、PSPやCBDには病気の進行そのものを抑制できる治療法はありません。しかし、今回紹介された抗タウ治療が臨床応用に至れば、これらの難治性神経変性疾患に対する初めての疾患修飾療法となる可能性があります。
もちろん解決すべき課題はまだ多く残されています。それでも、タウオパチー研究はここ数年で大きく加速しており、「アミロイドの時代に続き、これからはタウを標的とした疾患修飾療法の時代が本格的に始まろうとしている」そんな期待を感じさせるシンポジウムでした。
横浜鶴ヶ峰病院 脳神経内科 中村亮太
