『第88回 日本泌尿器科学会東部総会』加納医師
学会名 第88回日本泌尿器科学会 東部総会
日 時 2023年10月5日~7日
場 所 ロイトン札幌
第88回日本泌尿器科学会東部総会に参加したので、今回話題のトピックスの一つであった前立腺肥大症に対する低侵襲治療Mminimally Invasive Surgical Therapy(MIST)について報告する。
内視鏡的に前立腺肥大症は加齢に伴って肥大する前立腺で膀胱出口部が閉塞し、通過障害を来す疾患である。内視鏡的に前立腺線種を切除していく経尿道前立腺切除術(TURP)は本邦では1960年代から開始された。出血や射精障害など術式特有の合併症があるものの、閉塞解除効果についてはこれに勝る方法はなく、永らく前立腺肥大治療のGold Standardとされてきた。現在でもガイドラインで推奨グレードAの位置づけである。
1990年代以降に複数の有効な薬剤(αブロッカー、5a還元酵素阻害薬、PDE5阻害薬)の登場で薬物療法が選択される機会が増えたが、これは手術侵襲を伴わないメリットがあるものの効果は決してTURPを上回るものではない。
近年、患者の益々の高齢化に伴い、長期間の薬物療法のデメリット(認知症、起立性低血圧など)に関する報告も散見されるようになった。
このような背景から、前立腺肥大症に対する手術療法が見直されるようになってきた。手術の効果に関しては恐らくTURPを上回るものは現在も無いと筆者は考えるが、TURPに近い効果を得ながら手術侵襲をいかに減らせるかということが最近のトピックとなっている。 現在、普及しつつある術式として前立腺インプラント埋め込み尿道吊り上げ(Urolift)と経尿道的水蒸気治療(Rezum)が話題となっており、導入時の初期報告がされていた。
前者は前立腺部尿道を内から外へ牽引するインプラントを経尿道的に数本留置することで尿の通路を確保する方法である。
また、後者は水蒸気を経尿道的に前立腺に充満させることで、熱エネルギーを用いて細胞壊死を誘導し、線種を縮小させる方法である。
現状ではこちらの術式は「前立腺肥大症の手術適応はあるものの全身状態不良で合併症リスクが高い症例、高齢又は認知機能障害のため術後せん妄・身体機能低下のリスクが高い症例」に適応が限定されている。
有効性と安全性に期待が持てる術式という印象を受けたが、MISTは従来の手術と同様の効果を求めると合併症を増やす可能性もある。それぞれのコンセプトに沿った治療を心がけること今後本邦でも普及していく可能性が示唆された。
横浜鶴ヶ峰病院 泌尿器科 加納 英人