新型コロナウィルス『PCR』検査について

新型コロナウイルス感染症の診断には、これまでの『PCR』検査『抗原』検査だけでなく、最近では『抗体』検査ができるようになりました。
そもそも『PCR』検査とは何なのか、また『抗体』検査との違いや問題点は何なのか、簡単に整理してみたいと思います。

●『抗体』検査結果の解釈については特に注意が必要です。
・偽陽性について:本当は感染していないのに感染者と判定されてしまう。
当初、680人中51人が陽性反応(定性検査)となったものの、精密検査(定量検査)で最終的な陽性反応は6人(0.88%)という精度でした。

・「今、感染している」ことを示すわけではない:『感染していない証明』には使えません。
『抗体』にはIgMとIgGの2種類があります。また『抗体』ができるまでに時差があります。
IgM(急性期:感染の早期):発症から1-2週間程度経ってから上昇する。
IgG(過去の感染既往):発症から2-3週間程度経ってから上昇する。
また、抗体がいつまで続くか、どのような効果が期待できるか、まだ分かっていない部分がたくさんあります。
抗体が陰性だからといっても、感染は否定できません。
IgG抗体が陽性(過去の感染既往)でも、また感染するかもしれません。

・感染症の全体像を把握し、公衆衛生上の対策に役立てることの意義が大きいです。
個人個人の感染の診断という位置づけでは使えません。

『今、感染しているのか』を調べるには、『PCR』検査か『抗原』検査を用います。
・『PCR』検査は発症直後から検出されやすく、『抗原』検査も同様です。
・『抗原』検査はウイルスそのもののタンパク質の一部を検出する検査です。 鼻から綿棒を入れるインフルエンザ検査と原理は同じです。
・診断精度は、『PCR』検査より『抗原』検査の方が劣ります。
『抗原』検査で陰性でも、『PCR』検査が必要になる場合があります。

最も診断精度が高い検査は『PCR』検査です。
・それでも、『PCR』検査の精度(感度)は70%程度です。
  つまり、30%の人は感染していても陰性と判断されます。
・また、『PCR』検査の陰性の的中率は99%です。
  つまり、感染していないのに1%の人は誤って陽性と診断されます。
 では、
 『日本人1億人として0.1%の感染率とすると感染している人は10万人です。
  もし1億人に『PCR』検査をするとどうなるでしょうか。』
30%の人は感染していても陰性と判断されますから、10万人の30%である3万人の人が感染しているのに、陰性と診断されて街を出歩くことになります。 
感染していないのに1%の人は誤って陽性と診断されますから、
 1億人の1%である100万人は感染していないのに陽性と診断されてしまい、 入院やホテル待機になります。(日本の全国病床数は1万3000床程度)
・これが、無症状や軽症の人への全例『PCR』検査はしない理由です。

 このように『PCR』検査にも限界があり、解釈には注意を要します。心配だからとりあえず検査を受けたい方もおられるでしょうが、検査を受けたことで誤った方向に導かれることがありますので、安易に検査ができない事情があります。当院へ各種検査希望でお問い合わせをいただきながら、ご期待に添えないことがあろうかと思いますが、何卒ご理解のほど宜しくお願い申し上げます。

 いったん小康状態に至り、非常事態宣言も解除された新型コロナウイルス感染症ですが、必要以上に怖がり過ぎることなく、『正しく恐れる』ことが必要です。これからは”with コロナ”として感染対策をしっかり行いながらの『新たな日常生活』を取り戻すことが大切になると思われます。

横浜鶴ヶ峰病院 副院長 診療部長 川又朋章

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